こおろぎの娘さん
- 角田 響子
- 2020年4月27日
- 読了時間: 2分
更新日:2020年4月29日

こおろぎ こおろぎ
わたしは こおろぎの娘さん
こおろぎの娘さんは かえるでないことが
かなしいの
もし わたしが かえるだったら
お池にボチャンと とびこみません
水かきを すうるりお水にくぐらせて
しずかに お池に 浮かぶでしょう
そうして 黙って浮かんでいると
お池が ゆりかごになるでしょう
こおろぎ こおろぎ
わたしは こおろぎの娘さん
こおろぎの娘さんは かえるでないことが
かなしいの
もし わたしが かえるだったら
「グェエロ グェエロ」などとは 鳴きません
「フルフル フルール」って 歌うでしょう
みんなが子守唄のように きいて
あまいゆめを みることでしょう
こおろぎ こおろぎ
わたしは こおろぎの娘さん
こおろぎの娘さんは かえるでないことが
かなしいの
もし わたしが かえるだったら
かえるだったら
そりゃあ きれいに泳ぐでしょう
まえあしは「よろしゅう」と
うしろあしは「さよなら さよなら」って
水をかくんです
水面には さぞかし美しい
波のもようが 描けるでしょう
ときどき 水草が
「さわらせて」って 誘いますから
「ちょっとだけよ」って からかってやります
こおろぎ こおろぎ
わたしは こおろぎの娘さん
こおろぎの娘さんは かえるでないことが
かなしいの
もし わたしが かえるだったら
てかてかのお衣装で 日光浴などいたしません
月夜の晩 水鏡に そっとじぶんを映すでしょう
「なんてまぶしいかえるかな
かえるの中のかえるかな」
そういって まんまるお月さんは
まんまる おまるを くれるでしょう
お池に 映してくれるでしょう
でも わたしは かえるじゃないから
かえるでないから
お池にとびこむことも できません
「グェエロ グェエロ」とも なけません
お池を スイスイ泳げません
こおろぎ
わたしは こおろぎの娘さん
それでも 二まいの羽をふるわせて
チロチロ うたはうたえます
おもいきって 土をければ
少しは とぶことも できるんです
二まいの羽を はばたかせたら
風とダンスを しているよう
くるって 宙返り してみれば
お空だって ひっくり返すこと できるんです
こおろぎ
わたしは こおろぎの娘さん
おわり
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