過保護な母親から成長しようとする少年エリック
のエピソード
人 物
エリック 小学生(8)
マリア エリックの母(40)
アラン エリックの父(38)
少年1 近所の上級生
少年たち 少年1の仲間
ストリートチルドレンの少年
通りがかりの婦人
八百屋の店主
守衛の男性
ゴミ収集の男性
理科の男性教師
小学校の生徒たち大勢
下校中の生徒数人
○エリックの家・全景(朝)
閑静な住宅街の一画にある庭付きの邸
宅。周りの樹々は紅葉し、葉を落とし
始めている。晴れた秋の日和。
制服姿で身なりのいいエリック(8)
が、カバンを手に玄関から出てくる。
後ろで呼び止める声。
マリアの声「エリック、エリック」
立ち止まるエリック。
○同・玄関・外(朝)
玄関からマリア 飛び出してくる。
手には毛糸の赤い帽子を持っている。
マリア「エリック、お待ちなさい。ダメじゃ
ないの、忘れんぼね」
マリア、毛糸の帽子をエリックに被せ
て、
マリア「もう外の風は冷たいんですからね。
温かくしてなきゃ。お母さんが愛情込めて
編んだのよ。あったかいでしょ」
しかめっ面のエリック。
マリア「まあ、似合うこと。この色にしてよ
かったわー」
背を向け歩き出すエリック。
マリア、背後で話続けている。
マリア「今度はセーターがいいかしら。何色
にしようかしらね。白だと汚すし……」
エリックが門に手をかけると、
マリア「いってらっしゃい。気をつけるのよ
坊や」
エリック「(呟き)また坊やって言った!」
腹立たし気に門を出るエリック。
○道(朝)
石畳の上の落葉を、蹴散らしながら歩
くエリック。
エリック「かいかいー(痒い痒い)」
帽子が鬱陶しそうなエリック。
後ろから、少年数人が走ってやってく
る。エリックより一回りも二回りも身
体の大きい子供たち。
エリックに向かって、
少年たち「やーいやーい、変な帽子被ってや
んの」
少年たち、エリックを囲んで囃し立て
る。
エリックむっとして、果敢にも背丈の
一番大きい少年1 を突き飛ばす。
少年1「やったなー」
少年1、いきなりエリックの帽子をつ
かみ取り、仲間と投げ合いを始める。
少年たち「そーらそーら」
帽子を取り返そうと、追いかけるエリ
ック。が、なかなか捕まらない。
少年たち、そのまま公園へ。
○公園(朝)
一団となって騒ぎながらやってくる少
年たち。少年1が帽子を投げると、帽
子は高く宙に舞い、そのまま樹の枝に
引っ掛かってしまう。
息を切らして追いつくエリック。一同、
樹の枝に引っ掛かった帽子を見上げる。
少年1「あーあ、俺、知らねー」
少年たち「知ーらね」
「知ーらね」
少年たちそそくさとその場を立ち去る。
ひとり、帽子を見上げるエリック。
手を伸ばすと、背丈の3倍は高い所に
ある。取る気もない様子で、ジャンプ
してみるが当然届かない。
エリック、カバンを置き、樹を登ろう
と始める。幹は太く、なかなか足は掛
からず、ずるずると滑るばかり。
諦め、「フーッ」とため息をつく。
× × ×
(フラッシュ)
根がどんどん大地を這い、幹は遥か上
方高く伸び、枝は拡がり、葉が数を増
して、大きく成長する樹。
地球を抱えて宇宙に生えている樹。
地球が回って一緒に樹も回る。
× × ×
エリック、手を伸ばして帽子を見る。
エリックの拡げた小さな手の向こうの
赤い帽子。
時々木漏れ日がキラキラと眩しい。
エリック「落ちろ落ちろ。帽子よ落ちろ」
独楽のように回転を始めるエリック。
赤い帽子を中心に、木の葉が黄色い輪
になって回転している。
速く回ると黄色い輪に、ゆっくり回る
と葉っぱだとわかる。
逆に回ると逆回転する黄色い輪。
楽し気なエリック、どんどん回転を速
めていく。と、
× × ×
(フラッシュ)
回転の中心、回る赤い帽子にマリアの
顔が現れる。
マリア「私の坊や」
マリア、満面の笑み。
× × ×
ヒャっと目を瞑り、尻餅をつくエリッ
ク。帽子は依然と樹の枝にある。
川向こうで鐘の音(学校の始業を知ら
せるチャイム)。
エリック、帽子に手を振り、その場を
立ち去る。
木の枝の赤い帽子が少し揺れる。
○小学校・入口・前(朝)
守衛の男性が、門を閉じようとしてい
るところ。慌ててその隙間から駈け込
むエリック。
○もとの公園(朝)
木の枝には(相変わらず)赤い帽子が
ぶら下がっている。
そこへ、突風。枝が大きく揺れ、ハラ
リと落ちてゆく帽子。
つづく
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